ベテラン俳優・佐藤浩市が語る「仕事」の信念

斜に構えていた若手時代

今週の週刊文春に俳優・佐藤浩市のインタビューが掲載されています。彼は今年、還暦とデビュー40周年を同時に迎えました。芸能界で40年続けてきたことは、それだけで特筆に値します。このインタビューでは、そんな彼の「仕事」に対する信念が語られています。

30代だった頃の彼は、人から言われたことに反発して役を演じるタイプでした。もともと「いつまで続けられるのか」と思っていたこともあって、「それなら好きなことをやろう」と考えていたそうです。

それが経験を積むにつれて、「相手の満足できる形はどこにあるんだろう」と考えて、監督やプロデューサーと話し合って演技を決めるようになりました。その変化について、「役者を仕事として、いい意味で捉えられるようになった」と語っています。

彼はもともと「仕事」に対して、いいイメージを持っていませんでした。仕事に付随する「生活のため」や「家族のため」というニュアンスを嫌い、「自分たちは仕事でやってるんじゃない、その前にまずもの作りをしているんだ。そんな風に斜に構えていた」と振り返っています。

「お金のため」から「人のため」に

信念はテーマ、エピソード、フレーズの3つでできています。彼の場合、「仕事」というテーマについて、まだ若くて余裕がなかった頃は「生活のため、仕事のため」と考えて、それが信念になっていました。しかし、経験を積むにつれて、「相手の満足できる形を探す」と考えて、それが信念になっています。つまり、信念が変化しているのです。

「生活のため」や「家族のため」は、「お金のため」ということです。それに対して、「相手の満足できる形を探す」というのは、「人のため」になっています。私たちは働き始めた頃、仕事について「お金のため」という信念を抱きがちです。そして、それを嫌うあまり、芸術性や創造性に走ろうとします。佐藤浩市の場合は、それが「その前にまずもの作りをしているんだ」というフレーズに表れていました。

しかし、様々な人間関係を経験すると、仕事に対する信念が「お金のため」から「人のため」に変わっていきます。すると、自分も相手も、お金もクリエイティビティも、あらゆる視点で納得できる働き方ができるようになってきます。それが人間として成長するという事です。

生身っぽい演技をするのがいい役者

「仕事」に対する信念が変化した一方で、「役者の魅力」に対する信念は同じものを持ち続けています。彼は「たとえ役であっても、生身っぽく感じさせる演技をする人。それがいい役者なんです」と話しています。

彼はこの信念を役者の先輩たちから学びました。その先輩たちは「我々は役者であって、踊りを踊っているわけじゃないんだ」「振り付け通りにやっているわけじゃないんだ」と繰り返し説いたそうです。その型にはまらない演技の魅力を彼は「生身っぽい」と考えて、それが信念になっています。

この「仕事」と「魅力」は役者に限らずどんな仕事でも重要なテーマです。お金のためだけでなく、相手のために仕事をすること。そして、自分が携わる仕事のどこに魅力があるのか、それを自分なりに見つけておくこと。この二つによって、「いい仕事」や「長く続く仕事」は支えられているのです。

信念を持つには、自分が決めたテーマについて日頃から情報を集める必要があります。また、ただ信念を持つだけでなく、それを誰かに話して、自覚を高めることも大切です。信念の3要素であるテーマ、エピソード、フレーズに、このヒントとアウトプットを加えた5ステップを私は「マインドレコーディング」と読んでいます。

〈マインドレコーディングの5ステップ〉
1.テーマを決める
2.ヒントを集める
3.エピソードを振り返る
4.フレーズを作る
5.アウトプットで確かめる

自分の信念を確かめるには?

佐藤浩市の場合、このインタビュー自体がアウトプットで確かめる機会になっています。成功した経営者やスポーツ選手や芸能人はインタビューや対談を通して、自分の信念を自然と確かめられる強みがあります。

私たちのような一般人は自分の考えを話す機会があまりありません。その貴重な機会になるのが友人関係です。家族や同僚といった利害関係が生じる相手だと、なんでも自由に話すわけにはいきません。しかし、利害関係のない友人であれば、ざっくばらんに話すことができます。友人はただの遊び相手ではなく、切磋琢磨する存在でもあるのです。

松尾芭蕉は「不易流行」を俳句の理念に掲げました。不易(変わらないこと)と流行(変わること)は対立させるのではなく、両立すべきというのがその教えです。佐藤浩市の「仕事」に対する変化した信念と、「役者の魅力」に対する不変の信念は、この不易流行を感じさせます。たった1ページのインタビューですが、円熟を感じさせる読み応えのある内容でした。

マインドレコーディングとは?

「頑張ればうまくいく」という根性論でもなければ、「こうすればうまくいく」という方法論でもない、物事を成し遂げるための信念を持つ手法。それがマインドレコーディングです。
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