杉本昌隆八段「師匠から受け継いだ」藤井聡太への励まし

将棋の藤井聡太二冠はデビュー戦から負けなしで29連勝を達成しました。歴代単独1位の大記録になったこの快進撃はマスコミにも取り上げられ、将棋ファン以外も関心を寄せる大きな話題になりました。

しかし、そんな藤井二冠もプロ昇格のかかった奨励会三段リーグでは、13勝5敗という成績でした。プロになれるのは三段リーグに参加した30名前後のうち、上位2名のみ。藤井二冠が参加したリーグは12勝6敗が5名いる接戦でした。

この時、師匠の杉本昌隆八段は「心配していないから」と励ましました。この言葉は単なる気休めではなく、彼の「師匠」に対する信念がうかがえます。

信念は「テーマ」「エピソード」「フレーズ」の3つで出来ています。何かを成し遂げたり、習慣や性格を変えたりするには、この信念が必要です。

<信念の3要素>
1.テーマ(取り組むべき課題)
2.エピソード(心を揺さぶられた体験)
3.フレーズ(体験について考えたこと)

杉本八段の場合、「師匠」というテーマについて、自分の師匠だった板谷進九段のことを思い出しています。当時16歳で二段だった杉本八段は不調に陥り、「負ければ降格」という対局がありました。

この時、板谷九段は「杉本のことは心配しとらん。いつか必ずプロになる」と励ましました。この時のことを振り返って、杉本八段は「弟子の未来を信じる大切さを学んだ」と振り返っています。

これが信念になっていたからこそ、彼は自分の弟子の藤井二冠に「心配していないから」と励ましたのです。「心配しとらん」と「心配していないから」は同じ内容です。

師匠はスポーツやビジネスにとって重要なテーマです。何かを成し遂げるには、大なり小なり教育が必要ですが、その内容は「技術」と「メンタル」に大別できます。そしてそのバランスによって師匠は、「トレーナー」「ティーチャー」「マスター」「コーチ」「メンター」といった呼称に変わります。

杉本八段は「将棋は自主性が大事で丸暗記して上達するわけではない」と考え、メンタルを重視しています。そしてメンタルに影響を与えるのは、理屈ではなく人物です。

藤井二冠は「心配していないから」という励ましについて、「ほっとした」と後で話したと言います。彼の心が軽くなったのは、励ました杉本八段自身が、過去に同じ体験をした裏打ちがあるからです。

こうした繰り返される人間関係こそが、心の重みです。もし私がこの時の藤井二冠に「心配していないから」と言っても何の説得力もありません。「誰だよお前」で終わってしまいます。「心配ない」という一言は誰にでも言えますが、誰が言っても同じではありません。

「『何を言うか』と『誰が言うか』はどちらが大事か?」という話がよくありますが、答えは両方です。ただ、この二つには使い分けが必要です。技術については「何を言うか?」が、メンタルについては「誰が言うか?」が刺さります。

信念を持つには、自分が決めたテーマについて日頃から情報を集める必要があります。また、ただ信念を持つだけでなく、それを誰かに話して、自覚を高めることも大切です。信念の3要素に、このヒントとアウトプットを加えた5ステップを私は「マインドレコーディング」と読んでいます。

〈マインドレコーディングの5ステップ〉
1.テーマを決める
2.ヒントを集める
3.エピソードを振り返る
4.フレーズを作る
5.アウトプットで確かめる

杉本八段にとって師匠がテーマになるのは、藤井聡太という弟子がいるからです。弟子は師匠によって育ちますが、師匠もまた弟子によって育ちます。自分の弟子に接していれば、それがヒントになって、自分が弟子だった頃の師匠の振る舞いを思い出す機会になります。

また、インタビューや対談で自分の体験や考えを披露することも、同じように思い出す機会になります。大切なのは振り返ること、そして思い出すことです。その繰り返しによって、信念は強くなります。杉本八段の体験はこのことを物語っています。

信念論とは?

人間関係に根ざした「だから自分はこれをやるんだ」という信念論が、行動力の正体です。信念論を知ることで、悩みや困難を乗り越えられるようになります。詳しくは下記リンクをご覧ください。