元騎手・蛯名正義「俺のところに来い」と誘われた調教師転身

競馬騎手の蛯名正義が現役を引退し、調教師に転身しました。調教師になる決断をしたのは、3年前の2018年です。この年は、蛯名騎手が「お世話になった」という二人の調教師の引退が重なり、「応援してくれている馬主さんのためにも、違った形で応えたい」と考えたと言います。その「違った形」というのが、調教師です。

とはいえ、「調教師になりたい」と考えたらからといって、すぐになれるわけではありません。専門知識と専門技術を学んではじめて、人はプロになれます。実際に蛯名騎手も2018年に受けた調教師免許試験は一次試験で不合格でした。

その後、JRA賞最多勝利調教師を11度獲得した藤沢和雄調教師のもとで勉強を重ねて、2020年に三度目の正直で合格し、2021年の騎手引退が決定しました。蛯名騎手は現在も藤沢調教師のもとで勉強を続けていて、一年後の開業を予定しています。

藤沢調教師について、蛯名騎手は雑誌『ギャロップ』で次のように話しています。「一頭一頭の馬を本当に細かく見ている。一言で馬を大事にすること。やられていることはシンプルなんだけど、馬に対する姿勢というか、向き合い方が違う」。そして、自分のこれからに結びつけて、「ジョッキーの頃よりも地道な作業が多いと思うし、コツコツと頑張ります」とまとめています。

「頑張ればうまくいく」という根性論でもなければ、「こうすればうまくいく」という方法論でもない、人間関係に根ざした「だから自分はこれをやるんだ」という信念論が人間には必要です。この信念論のパターンを覚えれば覚えるほど、自分の信念も自覚できるようになります。

蛯名騎手は藤沢調教師の影響を受けて、「地道な作業をコツコツ頑張る」という信念を持ちました。この二人の関係は「師匠と弟子」ですが、その前に「引退者と受け皿」という関係でもあります。

2018年に蛯名騎手が「調教師免許試験の勉強を始める」と伝えた時、藤沢調教師は「俺のところに来い」と誘いました。このことについて、蛯名騎手は「自分も行き場がないというか、どうしたらいいのかと思うようなところがあったし、ありがたかったですね」と振り返っています。

人間にとって、自分の居場所は最も大きな問題です。自分の居場所がなくなるほど、心細いことはありません。人はこの世のどこにも居場所がなくなると、あの世に行くしか無くなります。それが自殺です。

居場所の有無に比べれば、普段気にしている、「勝敗」や「優劣」は二の次、三の次の問題です。蛯名騎手ほどの実績を持つ人間であれば、「引退後だってどうとでもなる」と想像してしまうかもしれません。また、蛯名騎手の場合は、迫害やペナルティによって所属していたコミュニティを追放されたわけでもありません。しかし、それでも居場所がなくなることは、悩みや不安の種になります。

そんなときに、「お前が必要だ」「俺のところに来い」と誘ってくれる受け皿の存在は救いになります。だからこそ、蛯名騎手は藤沢調教師を師と仰いだのです。「師匠と弟子」の関係になって何かを教わるには、その前にまず、「引退者と受け皿」のような心を通わせる関係が必要です。

形式的な「教師と生徒」「師匠と弟子」という関係だけでは、素直に相手の話を聞くことはできません。学校などに入って形式的な関係が先に結ばれるとしても、いずれは心を通わせる関係を結ぶ必要があります。そうでなければ、相手の言動に興味関心を持って注目することはできないからです。

相手に対する尊敬があるからこそ、その人の一挙手一投足が教えになり、自分にとっての学びになります。だからこそ、蛯名騎手は「一頭一頭の馬を本当に細かく見ている」という藤沢調教師の姿勢に影響を受けて、「地道な作業をコツコツ頑張る」という信念を持ったのです。

今後、蝦名騎手が調教師として成功するかどうかは誰にもわかりません。ただ一つ言えるのは、蝦名騎手のように信頼できる人間関係と、そこから生まれる信念があるからこそ、人は努力し、大きな結果を出せるということです。

信念論とは?

人間関係に根ざした「だから自分はこれをやるんだ」という信念論が、行動力の正体です。信念論を知ることで、悩みや困難を乗り越えられるようになります。詳しくは下記リンクをご覧ください。