「ダービー馬を育てたい」調教師に転身する騎手・蛯名正義

競馬騎手の蛯名正義選手が現役を引退し、調教師に転身します。蝦名選手は34年の現役生活で、JRA通算2538勝、JRA・G1レース26勝、フランスG1凱旋門賞2着2回など優れた成績を残しました。

蝦名選手が調教師になる決意をしたのは、調教師試験を受けた3年前です。この年は、蝦名選手が「お世話になった」という二人の調教師の引退が重なり、「応援してくれている馬主さんのためにも、違った形で応えたい」と考えました。その「違った形」というのが、調教師です。

この蝦名選手の転身について、背中を押した人物がいます。それが同じジョッキーの武豊選手です。武選手は蝦名選手と同じ1987年にプロデビューした、競馬学校の同期です。二人は同じタイミングでアメリカ遠征や凱旋門賞に挑んだライバルでもあります。武選手は蝦名選手について、「ただの仲のいいジョッキーではないですからね」と雑誌『GALLOP』のインタビューで話しています。

海老名選手もこのインタビューを読んでいて、武選手の「蝦名厩舎の馬でダービーに勝ちたい。エビちゃんにダービーを勝たせてあげたい」という言葉を取り上げて、「実際、そうなるように頑張っていきたい」と話しています。

蝦名選手は日本ダービーに25回挑戦しましたが、2着2回という成績で引退することになりました。そうした因縁のあるレースだからこそ、「調教師としてダービーを制覇できるように頑張りたい」という信念を持っています。

「頑張ればうまくいく」という根性論でもなければ、「こうすればうまくいく」という方法論でもない、人間関係に根ざした「だから自分はこれをやるんだ」という信念論が人間には必要です。この信念論のパターンを覚えれば覚えるほど、自分の信念も自覚できるようになります。

蝦名選手と武選手の関係は、30年以上つきあいのある「旧友」であり、競い合った「ライバル」です。武選手は「『調教師を目指す』と言ってきた日のことを思うと、いろいろと込み上げてきますね」と話しています。そんな相手から、「お前の育てた馬でダービーを勝ちたい」と言わているからこそ、それが励みになっているのです。

蝦名選手は日本ダービーの未制覇について、「それが現実」「何を言っても過去を変えることはできない」「悔しい思いをした経験も生かしていかなければならない」と話しています。これは、ただ武豊選手に背中を押されただけではなく、本人にもそのつもりがあったということです。

「背中を押す」というのは、背中を押される側にそのつもりがあるからできることです。「悔しさを生かす」という蝦名選手の自力と、「旧友を応援する」という武選手の他力。人生が前に進む時は、この自力と他力の揃っています。

周りがいくら応援したくても、本人にそのつもりがなければ、行動や結果には結びつきません。また、本人がいくら頑張りたいと思っても、誰も応援しなければ長続きしません。蝦名選手の転身のように、「実はこんなことを考えているんだ」と腹を割って話せる友人の存在は、新しい道を進んでいく原動力になります。

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