アデランス社長「笑顔が消えた職場」を見て回帰した創業理念

雑誌『一個人』の2020年秋号に、アデランスの津村佳宏社長のインタビューが載っています。アデランスは男性用ウィッグの会社として1968年に創業しました。津村社長は1982年に19歳で入社して、営業本部長や代表取締役専務、副社長を歴任した叩き上げです。

彼が社長に就任した2017年以降、アデランスは毎期連続で最高売上を記録し増収増益になりました。その原動力として、彼は「社員の笑顔を増やす」という方針を挙げています。

アデランスは2009年に外資系投資ファンドが経営権を握り、ファンドによって招聘された人物が経営陣に収まりました。その結果、「経営陣と社員との間に溝が生まれ、社員から笑顔が消えて、経営悪化を招いた」と言います。この経験から「社員の笑顔を増やすこと」と考え、それが信念になったのです。

彼が社長に就任した2017年に、アデランスは自身を含めた経営陣によるMBOで非上場化しました。この時、彼は「笑顔と心豊かな暮らしに貢献すること」という経営理念をやり抜く決心をしています。

津村社長はこの笑顔の対象に顧客だけでなく、社員や社会も含めています。いわゆる「三方よし」の経営です。そして、社員の笑顔は「仕事へのやり甲斐や帰属意識にある」と定めて、社員満足度向上に取り組み、帰属意識を高めるためにCSR活動についてまとめた「笑顔のために」という小冊子を配布しました。その結果、現場に笑顔が戻り、お客様満足に繋がり、社会貢献活動も高まり、この「三方よし」が売上利益回復の道筋になったと言います。

何かを成し遂げたり、習慣や性格を変えたりするには信念が必要です。そして、信念は「テーマ」「エピソード」「フレーズ」の3つで出来ています。

<信念の3要素>
1.テーマ(取り組むべき課題)
2.エピソード(心を揺さぶられた体験)
3.フレーズ(体験について考えたこと)

津村社長のテーマになっているのは「メッセージ」です。このテーマについて、彼は「現場から笑顔が消えて、経営が悪化した」という経験から、「笑顔のために」という信念を持っています。

「笑顔のために」といったフレーズは中身のないお題目になりがちです。しかし実際に笑顔が失われた職場を経験して、「大切なのは笑顔だ」と考えたのであれば、それは力強い信念になります。自分の体験について、自分で考えたことが信念になるのです。

ビジネスにおいて「メッセージ」は重要なテーマです。自分たちの商品やサービスを通じて、何を届けたいのか。それを特定しなければ、商品やサービスを作ることも売ることもできません。

メッセージは同じ業界でも企業によって異なります。トヨタもロールスロイスも同じ「クルマ」を作っていますが、両者のメッセージは異なります。トヨタのメッセージが「世界標準」なのに対して、ロールスロイスのメッセージは「ラグジュアリー」です。

この二つは「どちらが正しい」あるいは「どちらが優れている」という比較はできません。ただ「自分たちはこうある」というだけで、そこに正しさや優劣はないからです。だからこそ、それは「自分たちはそう信じている」という意味で信念なのです。

信念を持つには、自分が決めたテーマについて日頃から情報を集める必要があります。また、ただ信念を持つだけでなく、それを誰かに話して、自覚を高めることも大切です。信念の3要素に、このヒントとアウトプットを加えた5ステップを私は「マインドレコーディング」と読んでいます。

〈マインドレコーディングの5ステップ〉
1.テーマを決める
2.ヒントを集める
3.エピソードを振り返る
4.フレーズを作る
5.アウトプットで確かめる

アデランスは男性ウィッグの会社として創業しましたが、実際の顧客は男性だけに限りません。女性、病気やケガ、火傷によって髪を失った人々からも多くの悩みが寄せられたと言います。

このことについて津村社長は「私たちは髪で悩まれている方々の人生に寄り添い、笑顔にすることを目指しながら課題解決に取り組んできたのです」と振り返っています。

人間の心はネット検索と同じです。ネット検索では「肩こり」をキーワードにすると、ネットにある膨大な情報から「肩こり」に関する内容だけを絞り込むことができます。私たちの心もそれと同じように、あるテーマを念頭に置くと、そのテーマに関わる体験を絞り込むことができます。

アデランスを非上場化した津村社長の目的は「原点に立ち返ること」でした。そして、その会社の原点には「笑顔と豊かな暮らしに貢献すること」という経営理念がありました。また、会社の歴史にはお客様を笑顔にしてきた歩みがあり、経営悪化の苦境には「現場に笑顔がない」という体験がありました。こうした数々の出来事がヒントになって、彼は「笑顔のために」をメッセージに選んだのです。

経営理念は軽視されがちです。自分の会社の経営理念をすぐに言える人は多くありません。また、ただ暗記しているだけで、実際の仕事に活かせないことも珍しくありません。しかし津村社長の体験談は、経営理念が会社の過去と現在に絡まり、未来を導き出しています。1ページの短いインタビューですが、非常に読み応えのある内容でした。

信念論とは?

人間関係に根ざした「だから自分はこれをやるんだ」という信念論が、行動力の正体です。信念論を知ることで、悩みや困難を乗り越えられるようになります。詳しくは下記リンクをご覧ください。